最後のプルチネッラ

2008年05月07日 00:00 |[あとで読む]

「こちら側」と「あちら側」という二分法は、インターネット業界でも端末側とWeb側という形で使われています。元はといえば、現世と天界という宗教的な二分法に端を発した考え方ですが、善と悪であったり美と醜であったり、要素を相対化することで理解する二分法は人間にとっては馴染みやすい考え方だったようです。


小島 てるみ
富士見書房 ( 2008-04-03 )
ISBN: 9784829176610
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友人の編集者が担当していた本であり、お付き合いベースで購読したのですが読んでみて驚きました。オイラがG.W.中に探求した『世界の成り立ちから日本の現状を把握する』というテーマを総括するような内容だったからです。物語は2人の少年を中心に進んでいきます。そして"現世"での進行と"道化"での転生が絡み合い、それぞれの二分法によってプルチネッラという存在がどのようなものかが明らかになっていきます。


日本で言えば歌舞伎がこのプルチネッラに該当するのかな、と思います。日本とイタリアというまったく地理的に離れた場所で同じような芸能が現れたというのは驚くべき奇跡のような偶然です。プルチネッラは仮面をかぶり、歌舞伎役者は隈取を行なってその役を演じることになるわけですが、その異形な道化が大衆に支持される理由は、権威に対してそのシニカルな内容からやんわりと抗議することができたということでしょう。


それにしてもこの作者のスゴいところは、それぞれの道化の小話にもまったく手を抜いていない!恐らく個々のストーリーで小説が1つ完成してしまうのではないかと思えるほどに魅惑的な脚本によって、プルチネッラのメッセージが届けられます。それが本当にナポリで演じられた内容なのか、小島てるみさんのオリジナルなのかはオイラには分かりませんが、いずれにしても日本語でこのプルチネッラの魅力を余すことなく描写できる創造力には感服しました。


この作者のもう1つのデビュー作品、『ヘルマフロディテの体温』にも俄然興味がわいてきました。いやはや、とんでもない才能を見出してくれたもんですよ。


ドラマで泣いて、人生充実するのか、おまえ。

2008年05月01日 00:00 |[あとで読む]

いつからだろう、波風を立てずに過ごすことを覚えたのは。
いつからだろう、本気で泣いたり笑ったりしなくなったのは。
いつからだろう、このままでよいのか?という自問自答をしなくなったのは。

テレビからインターネットへと、仮想的に物事を知ったような感覚になることが増え、結果、現実社会ではなんとなく冷めて物事を見てしまいがちになっていることを自覚しています。こんなとんでもないことがあった!なんてことへの対処法も、ググれば見知らない誰かの経験談がアーカイブされていますし、芸能人の話題などがごく近しい人という感覚で日常会話に登場することもしばしばあったりしますね。


ドラマで泣いて、人生充実するのか、おまえ。
きつかわゆきお
バジリコ ( 2008-03-11 )
ISBN: 9784862380845
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この本は「読み物」としてページをめくるだけならば、まったく価値はないでしょう。1ページにはただシンプルな言葉が並ぶのみで、読み流すならばものの10分で読了してしまいます。ただ1つ1つの言葉が深く、重いのでそれを自分の内部に受け止め能動的に思考することは大きな価値を生むことに繋がります。そんな言葉の一例と私自身の受け止め方を紹介します。


『人を好きになることが最強のエンターテイメントだ。』

その昔、家庭教師をやっていたときに生徒の親から「子どもがゲームばっかりやって…」という相談を受けたりしました。私自身、ゲームは好きですし否定するつもりはないのですが、思春期の時間の使い方を親が心配するのも理解できます。そして「恋愛すれば、ゲームなんてやるヒマなくなりますよ」とそのときに答えたことを覚えています。

それこそ自分が思春期に経験したことを実感を持った言葉であり、いろいろ伝聞で見知った言葉を並べるよりも心配する親に対して説得力を持った言葉として映ったことでしょう。生徒の親自身の思春期を振り返るきっかけとしてその言葉を受け取ってもらい、子どもをもっと信頼してコミュニケーションを図っていこうと考えてくれるようになりました。

もちろんそのときはそこまで意識していたわけではありませんが、相手に能動的に考えてもらう言葉というのは受け売りで言ってはいけないという感覚は得られました。


年を取るに従って経験と知識が増えてきますが、それを上回るような伝聞情報がメディアやWebから手に入ります。すると実感を伴った言葉というのがどうしても少なくなっていき、あるとき話している自分とは別の人格が「こいつ何言ってんの?」という感覚で俯瞰している状況が違和感として出てきたりします。それを放置するのか、向き合うのか、速読やライフハックといった昨今の風潮とは違うジャンルの「思考のきっかけ」を得る本として、是非連休の時間があるときに読んでもらいたい本です。

なぜ被害者より加害者を助けるのか

2008年04月24日 00:00 |[あとで読む]

この国ではなぜか、犯罪の被害者よりも加害者の方が手厚く保護されています。神戸での少年殺人事件で、被害者の兄(少年)は大変なショックを受け、医師による治療を必要としましたが莫大な治療費は自費です。一方、加害者の方は国の費用で医師団まで結成して対応し、数年後には釈放されています。こんな不条理なことが今まで行われてきていたのです。


なぜ被害者より加害者を助けるのか
後藤啓二
産経新聞出版 ( 2008-03-14 )
ISBN: 9784863060531
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実際に犯罪で被害者が死亡しているケースでは、被害者の遺族や近しい人は被害者ではないのでしょうか?そういった定義が曖昧な部分が、これまで被害者保障が進んでこなかった一因であり比較的特定しやすい加害者の人権は擁護されてきた経緯があります。


2004年に初めて「犯罪被害者等基本法」が制定され、『この法律において「犯罪被害者等」とは、犯罪等により害を被った者及びその家族又は遺族をいう。』(第二条2項)と犯罪被害者が定義されることになりました。光市母子殺害事件では夫の本村洋さんが犯罪被害者として認められ、その主張が司法判断に影響を与えたと考えられます。


もちろん裁判官も人の子ですから、加害者よりも被害者の方が悲惨であることは感覚的には理解できるでしょう。ただ法律の枠組みでいえば、犯罪被害者に対する配慮があまりにも欠けているのが現状であり、精神鑑定や執行猶予の仕組みが加害者の罪を軽減することに繋がっています。


犯罪被害者の情状を酌量すれば、今後は加害者に対する厳罰化が進むことでしょう。罪には罰を、という管理主義がよいのか、更生や性善説を信じる夜警国家がよいのか、もちろん議論が必要でしょう。裁判員制度の狙いは法律の文言に縛られずに個人個人の価値観に基づいた判断を要求されるということでしょうから、多面的に物事を考える能力が必要だと思います。光市母子殺害事件の判決が結果的に「死刑のハードルを下げる」ことに繋がるのか、それは我々自身の考え方にかかっていることを自覚しなければいけませんね。


[書評]小飼弾のアルファギークに逢ってきた

2008年04月15日 00:00 |[あとで読む]

運よく404 Blog Not Foundの小飼弾氏が監修した「小飼弾のアルファギークに逢ってきた」の初回献本をいただきました。早速読んでみたので下記書評をご参照ください。





結論から言うと、日本のIT業界にとって小飼弾という存在はとても貴重なのではないかと感じました。本来であればオン・ザ・エッヂのIPOで得たストックオプションで悠々自適に暮らしていける人であり、欧米のIT長者のように early retirement をしたり、慈善活動に精を出すなどの立場にあって然るべき方です。(実際にlivedoor系では宇宙旅行に行ったりする人がいますね。。)たぶんご本人はプログラムやBlogが最高の娯楽だと感じているのだと思いますが。


そんな人が404 Blog Not Foundで誰でも観られるような形でBlogを書いていたり、IT業界で注目を集めるアルファギークの本音を対談で聞きだしてこのような本を出してくれたりすることは、IT土方や貧乏くじ世代と揶揄される20代後半-30代の漠然たる不安に対してカンダダの蜘蛛の糸を垂らしてくれている印象がします。実際、インタビューにおける小飼弾氏の切り返しや対談者への深堀りは見識と地頭力がなければ不可能ですから、学歴ヒエラルキーや雇用形態とはまったく違う星から来ている小飼弾氏の存在が今後の日本社会がブレークスルーするロールモデルになり得ると感じます。


その意味では、P.44の「どれだけ持っているかではなく、どれだけ与えることができるかというのが金持ちの定義」というLarry Wall氏の言葉は、アルファギークたる条件を明示しているといえます。日本に居を構える小飼弾氏も、シリコンバレーから風を送る梅田望夫氏も、自身が持っているものを惜しみなく提供してくれている部分で真の金持ちなのであり、相続税なんていらないと豪語する辺りの論拠もたぶんこの辺りにあると思うのです。


世の中一般的には必ずしも小飼弾氏はメジャーではないとは思いますので、もしかしたら怪しげな風貌とlivedoor出身という経歴からは誤解を与えてしまう恐れがあります。その意味では本書を一般の方が読む場合には最後の「きたみりゅうじの小飼弾に逢ってきた」という部分からアプローチした方がよさそうですね。実際にプログラムの話を離れた仕事論や社会への提言といった大きな話題についても、小飼弾氏の"弾言"は1つの見識として必要だと感じます。


是非今後も同様の「小飼弾のアルファミシュラン料理人に逢ってきた」や「小飼弾のアルファグラビアアイドルに逢ってきた」みたいな形でシリーズ化してもらいたいものです。


夢をかなえるゾウ

2008年04月06日 00:00 |[あとで読む]

ずっと積ん読になっていたんですが、ようやく読みました。


夢をかなえるゾウ
水野敬也
飛鳥新社 ( 2007-08-11 )
ISBN: 9784870318052
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基本的には何をやっても長続きせず、日々惰性で過ごしているうだつの上がらないサラリーマンの前に、ガネーシャと名乗るヒンズーの偉い神様が突然現れます。この辺の話の展開は、ウケる技術やLOVE理論を書いた著者の面目躍如といったカンジですね。






すでに60万部を売り上げており、さらにドラマ化することが決定したそうなので恐らく100万部も突破しそうですね。特集サイトにも様々なコンテンツが用意されているので、バイラル効果も相当ありそうです。ドラマの主人公は恐らく大泉洋とかになるんでしょうか?


肝心の内容ですが、さまざまな自己啓発本のエッセンスを抽出したようなカンジで、そんなガネーシャのアドバイスだけを目的にしても十分買うに値します。しかしそれ以上に、“実践”することに対して繰り返しリマインドがかけられるので、読者自身がこれまでの自己啓発への失敗を振り返りながら読むことができる仕掛けになっています。


惜しむらくは、ほぼ男性向けの内容となっているので女性にとってはあまり馴染みのないシチュエーションが多かったりします。恐らく「毎朝、全身鏡を見て身なりを整える」なんて女性にとっては当たり前のことでしょうし、ホメたり人にプレゼントをするなんて行為も男性にとっては恥ずかしくても女性にとってはあまり改めて意識することがないことでしょう。


そんなカンジで恐らく、二匹目のドジョウを狙って女性向けのダイエットに関するバージョンが出てくるのではないかと予想しているわけです。21世紀のヒットメーカーの代表作として、一読の価値がある本だと思いますよ。

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